シノの《なぜなら》と《スネ》の雑考 その2、「サスケとシノの接点」
ほとんど接点が無かった「シノとサスケ」ですが、珍しく会話している場面があります。
「シノ・・なぜお前がここに!?」
「お前が会場を出る前に蟲を使って雌の臭いを付けさせてもらった・・雌の臭いはほぼ無臭・・その雌の微かな臭いを嗅ぎつけるのは同種の雄だけだ・・雄自身の方が臭いは強いがな・・」
「フッ・・」
「ここは任せろ、行け!」
「えらい強気だが・・・大丈夫かよ?」
「心配は要らない・・・ 10分もあればお前の援護にいってやる」
「フン・・その頃にはこっちも終わっている」
(14巻124~125話より)
時間にしてせいぜい1~2分程度の短いやり取りなんですが、短いながらもシノは《なぜなら》2連発だし、サスケもお得意の《フッ》と《フン》の「フ」を2連発して、いかにも「この2人っぽい」会話になっています。 今回は、この「シノとサスケの会話」部分の雑考を少々・・・
・サスケの「シノへの信頼度」
このやり取りの面白いところは、「当初ほぼゼロに近かった」サスケのシノへの信頼度が、この短いやりとり内でぐんと上昇して、しまいには「100%にまで到達している」点なんです。
なぜ当初は「ほぼゼロ」だったかというと、まだこの頃のサスケはシノの事を「ほとんど知らなかった」んですよね。 シノがどういう忍なのか、どの程度の実力なのか全くと言っていいほど知らなかった・・・任せても大丈夫と信じられる「根拠」が殆どゼロだったのです。
この当時(つまり中忍試験のころ)のナルト達って、案外と同期の事をよく知らない・・・ だから、この後の「サスケ奪還任務」で初めて班を超えた同期メンバーでチームを組んだけど、お互いの事をよく知らなかったから「ちょっとしたゴタゴタ」も起こしている(21巻、シカマルを「誤解」してもめたりしている)。
でも、そういったゴタゴタを通して、ナルト達は仲間どうし信頼の絆を深めていく事になるんですね。
特に、サスケはシノの中忍試験予選(対ザク戦)を観ていないから、シノの実力は知らなかったんです(シノは音忍ザク相手に見事な作戦勝ちを収めているんだけど、サスケはその間、カカシに呪印を封じてもらっていた・・)。 あの試合を観ていれば、サスケの「シノへの評価」も上がっていたと思うんだけどなぁ・・(ちなみに、ナルトは試合を観てシノの実力に驚いたようで、それ以降「シノ=強い」のイメージが出来上がったようだった)。 シノの立場からすれば、せっかくの「サスケに自分の実力をアピールする機会」を逃してしまった・・ということになる;
サスケが持っていた「シノの情報」と言えば、せいぜい「中忍試験本選まで残った実力者」という程度。 でも、それだけじゃあ「シノを信頼できる」根拠には足りなかった・・・・なぜならサスケは「確固たる根拠」がないと不安になるタイプですから(72巻のナルトとの闘いでも、「なぜそう言い切れる?」等々「なぜ」とナルトにしつこく根拠を求めていましたっけ)。
サスケやシノのような論理的思考タイプは、自分が納得いく根拠がないと「信頼」することが難しい。そして、相手に納得してもらう為にも「根拠を示す必要がある」とも考える。
だから、シノがここに現れた時点でのサスケの「シノへの信頼度」は、まだ「ゼロに近い」状態だったんじゃないかと思うし・・・シノ自身も、サスケに信頼してもらう為には「何か根拠を示さないといけない」なんて考えていたんじゃないのかな・・?
2人にやり取りを見ると、最初のうちは互いに「信頼していいのか?」「信頼してもらわねば」と考えている様子がうかがい知れる・・・ような気がする。
・で、会話の最初の部分を見ると・・
サスケは、「シノ・・なぜお前がここに!?」とかなり驚いてるんですが、ま・・そうですよね、第七班でもない他班のシノが、しかも一人で来るなんてサスケには相当「意外」だったんでしょうねぇ。 だから、この時の「なぜ」は、シンプルに「なぜお前がオレの増援にきたんだ?」という意味だったと思うんだけど、シノはなぜか最初に「違う事」を答えているんです。 「なぜ自分がここに来たのか」ではなく、「なぜサスケの居場所を把握できたのか」というね・・その「方法」を、論理的に永寧に説明しているんです。 で、そのあとやっと「なぜ自分がここに来たのか」の理由を言っている。
・信頼してもらう為の「根拠」
なぜ、シノは「サスケの追跡方法」を先に説明したんだろうか? それは・・まず、最初に自分の「力量」をサスケにアピールする必要があると考えたからじゃないだろうか・・?
たしかにシノの追跡方法は実に見事なもので、思わずカンクロウが「くっ・・!」と唸ったほどでした。 シノ自身《なぜなら(=根拠)》を重要視するタイプだから、この場を引き受けるにあたって「まずは信頼してもらう為の根拠」として、自分の能力をアピールをした・・ということじゃないのかな。
しかし、実際にサスケの「シノへの信頼度」を上げたのは、その見事な「能力プレゼン」では無かったような気がするんです。 サスケが「反応」したのは、こっちではなく・・・このあとシノが語ったセリフ「なぜならお前と奴との勝負はまだついていないからな オレはこいつとやる・・なぜなら元々こいつの相手はオレだったからだ」のほうでした。シノが後回しにした、サスケの質問に対する答え・・《なぜなら2連発》のセリフ、サスケはこれに《フッ》と微笑んで反応したのです。
・シノの《なぜなら》とサスケの《フッ》
サスケの《フッ》といえば、記憶に新しいところでは66巻、百豪の力を解放したサクラが十尾を「しゃーんなろー!!」とブッ飛ばしたのを見て、思わず《フッ》と笑ってる場面。 サクラの活躍が、よほど嬉しかったのかなぁ・・・ で、サスケはシノの《なぜなら2連発》にも《フッ》と微笑んだ。
《なぜなら》を連発して「建て前的なやや陳腐な理由」を並べるシノに、サスケは「自分と似たようなニオイ」を感じて、思わず微笑んでしまったんじゃないだろうか・・?
前回取り上げた「27巻のキバとシノの会話」でも、シノは《なぜなら》2連発で「本当の想い(感情)」を包み隠していました。 「仲間と一緒に闘いたかった、自分も一員として力になりたかった」という本当の想いをね・・・。 で、この時も本当はそうだったんだと思うんです。ホントは「仲間と闘いたかったから、仲間外れになりたくなかったから来た」。でも、そうは言えない・・
サスケもちょっとそういうところがあるから、シノが「想い(感情)を隠そうとしている」ことにすぐに気づいたんじゃないかと思うんです。 「感情的なもの」は信頼の「根拠」になどならないと考え、理屈で「想い」を包み隠そうとするところは、シノとサスケは似ている・・・ その「似たところ」が、サスケとシノの距離を縮めたのではないかと思います。
サスケもちょっとそういうところがあるから、シノが「想い(感情)を隠そうとしている」ことにすぐに気づいたんじゃないかと思うんです。 「感情的なもの」は信頼の「根拠」になどならないと考え、理屈で「想い」を包み隠そうとするところは、シノとサスケは似ている・・・ その「似たところ」が、サスケとシノの距離を縮めたのではないかと思います。
だから、そうやって大袈裟に包み隠そうとすればするほど、その中に在る「想い」は大きいという事もサスケは知っている。 そして「想いの大きさ」は「強さ」になることも・・「この頃のサスケ」は知っていた。
こうしてサスケのシノへの信頼度は、ほぼゼロから「70%ぐらい」まで上がったんじゃないかな・・
・そして「100%」へ
でも、サスケはすぐに気持ちを引き締めて「えらい強気だが・・・大丈夫かよ?」と冷静に確認するように尋ねるのですが、シノの答えは・・・
「心配は要らない・・・ 10分もあればお前の援護にいってやる」でした。
これまた実に頼もしい言葉。 かなり強気ですよね・・・シノ。
何がこんなにシノに「自信」を与えているのか・・・それは、それだけシノの「仲間の力になりたい想いが大きいから」。 この強気発言が口先だけに聞こえないのも「強い意志に裏打ちされているから」。
サスケが「シノの強さを確信し、シノを信頼した根拠」は・・論理的で立派な「術や能力の説明」よりも、シノが包み隠す「想いの大きさ、意志の強さ」。シノの揺るがない想いを知って、サスケの「シノへの信頼度」は100%越えになったのではないのかと思います。 それが証拠に、サスケが返した言葉は・・
「フン・・その頃にはこっちも終わっている」でした。
・サスケの《フン》
サスケと言えば《フン》というぐらい、《フン》はよく見かけますよね。《フン》の用途は広くて、相手を見下して鼻で笑う時も、強がる時も、ちょっと嬉しい時にも《フン》といってる。中でも38巻、久々に訪れた波の国の「なると大橋」を見上げた時の懐かしそうな《フン》は印象的でしたよねぇ・・。
で、シノの強気発言に対しての《フン》は「やれるならやってみろ」的な《フン》にも見えるのですが、サスケはそのあとに「こっちも」と言ってる・・・「も」ってことは、シノの自信発言をサスケが「認めた」ということになる。 シノを「対等な立場と認めた証」でもあるんですよね。 だから、この時のサスケの《フン》は・・・シノを頼もしく思い、シノと自分の「似たところ」に心がつながったような感じがして、どこか嬉しくなっての《フン》だったんじゃないかと感じています。
・2人が呼び合った「名前」
そして、2人が紡いだ「信頼」は・・・この後2人の「心の中のセリフ」として描かれます。離れた場所で、それぞれの相手と闘いながら・・・2人は心の中で互いの名を呼び、語りかける・・
(シノ・・こりゃお前が来るまでにゃあ終わりそうもねーな・・)
(どうやら援護には行けぬようだ 済まぬ・・うちはサスケ)
(126話より)
サスケは、シノの「10分もあれば増援にいく」約束を信じて・・・シノは約束を守れず「済まぬ」と謝っている。その心の会話は、“シノ”というサスケの呼びかけで始まり、それに“うちはサスケ”でシノが応えて終わっている。 お互いの「名前」を呼び合っているんですよね。
「名前」を呼ぶというのは、相手を認めていること・・・第1話で、イルカ先生がナルトのことを《化けギツネじゃなくて木ノ葉のうずまきナルト》と呼んで認めてくれた、あの時から「名前」の話から始まって・・・物語の終盤になってから「認めた相手の名前しか憶えないガイ」とか「オビトが自分の名前を取り戻す話」として出てきたりします。 ここでも「サスケとシノ」が、お互いの名前を呼び合っているのは・・・それまでよく知らなかった二人が《互いを信じ、認め合った証》。
ほとんど接点が無かったように思えた「シノとサスケ」の、ほんの短い時間の接点・・・そこに描かれたのは「互いの似たところ、共鳴できるところ」という小さな接点を見つけて、それを取っ掛かりとして心の中で繋がって・・・信じ、認め合っていく物語でした。
《なぜなら》とか《なぜ・・?》と理屈に縛られがちな二人だったけど・・「理屈を超えるモノがある」ということに、本当はもう気づいていたのではないかな・・・・
☆長駄文、読んでくださって感謝・・
☆明日27日(月)はBORUTO掲載日なので、夜あたりに感想をちょっとだけ・・とも思っています。
(ナルト好きブログ! 2017/02/26)