「友達」という言葉の意味 (ナルトとサスケ)
「お前は一体…何なんだ…?」
「友達だ」
私にとって、これはNARUTOの中でも最も印象に強く残っている場面のひとつ。
この時のぐちゃぐちゃになったナルトの顔を見るとお腹のあたりがキューンとなる…。今回はナルトのこの《友達だ》に関する雑考を。
「友情」は少年漫画なら外しちゃならねぇお題だし、ナルトの「友達だ」のセリフは実に「直球ストライク」。だけど、これがなかなか「届かない」んですよねぇ…サスケには。こんなに時間のかかったキャッチボールも珍しい。そしてナルトとサスケだけじゃない、柱間とマダラ、カカシとオビトも…彼らも素直に腑を見せ合えない「友達」ですよね。 NARUTOで描かれる「友情」は、くっつきそうでくっつかない、もどかしくてじれったい。
そして「友達だ」のセリフ…ナルトはほぼ似たような状況で、サスケに2回も言ってるんですが、その2つ、言ってる言葉はほぼ同じでも、ナルトの「表情」は全く違う。
1回目は終末の谷で、里を抜けようとするサスケを必死に止めるナルトが、絞り出すように言った「友達だ」。記事冒頭で引用した場面です。
そして2回目は約4年後、鉄の国国境、川の上での言葉。
(サスケ) 「何なんだ…?てめーは一体に何がしてーんだ!?何でオレにそこまでこだわる!?」
(ナルト) 「・・・・・」
「友達だからだ」
1回目は涙でグチャグチャな「必死な訴え」だったけど、2回目はドーンと余裕の表情なんですよね。全然違う表情…それもそのはずで、この2つは「スタート地点」と「ゴール地点」でもあったと思うんです。
《友達とは何なのか》…「分からなくなっちゃった」始まりが終末の谷の「あの時」だったし、
そして《友達とは何か》…「ようやく分かって」答えに辿り着いたのが、鉄の国での「この時」だったのだから。
では、ナルトが最初にサスケを「友」として意識し始めたのはいつだったのか…それはまだ幼い頃、サスケが自分と同じように「いつも一人」だと分かった頃からだったんですね。あの頃から「友達になりたかった」…だけど声を掛けられなかった(つい最近ですが(647話)、ナルトはその頃を思い出して《あの時…やっぱり声掛けときゃよかったって…後で何度も思ったんだ》と心の中で呟いていましたよね)。
だから「勝手にライバルに」設定したと言っていた… お互いに認めあわないと“友達”にはなれないけど、“ライバル”だったら相手の許可なく勝手に設定できますから・・。このあたり、ガイがカカシの事を“友”と呼ばず“ライバル”と呼ぶ心境と、似てるなぁと思うんです。
でも中忍試験の時、サスケが「オレはお前とも闘いたい」と言って“認めてくれて”ナルトは凄く嬉しかったんですよね…だって“認めてくれた”ってことは、口には出さなくても《オレ達は友達なんだ》って思えたから。
しかしナルトが《友達》という言葉の意味を見失ったのは、それからすぐだった…
終末の谷で、サスケは「オレにとってお前は最も親しい友になった」と口に出して言ってきたのに、そう言いながら本気でナルトを殺そうとしてきた…「言ってる事とやってる事が全然違う」。だからナルトは《友達》という言葉の意味が分からなくなってしまう…
《勝手に友達だと思ってたのは オレの方だけかもしんねェ…》
《だとしたら…オレは…》
《すっげーダッセーじゃねーかよ… サスケェ…》
そしてその直後の一言だったんですよね、1回目の「友達だ」の発言は。
だから、あの「友達だ」は確信に満ちた一言じゃあない…「そうあってほしいんだ!」という絶望的な願い、空しい叫びだったんです。 谷底に落ちる水の轟音に掻き消されてしまいそうなぐらいの「届かない叫び」。もはやその言葉に「意味は無かった」…だからナルトは涙でボロボロ… あれからずっとナルトは《友達とは何なのか》の答えを探し始めたんじゃないかと思います。
一方でサスケは、イタチから「万華鏡写輪眼を開眼するためには 最も親しい友を殺すことだ」と言われていたけど、ナルトを殺すことは「出来なかった」…最後に気を失ったナルトに止めを刺すことはできたはずなんだけど、結局しなかった。
でもその理由を《アンタ(イタチ)の言いなりにはならない、オレのやり方で力を手に入れる、オレのやり方でアンタを越える》とサスケは自分に言い聞かせてるんですよね…無理やり言い聞かせる感じで。
《目的達成の為に友を犠牲にするか、それとも友を殺さないか》…サスケは「選択」を迫られたけど、ナルトを殺さなかった。
それでも「友達」にこだわり続けるナルトに、自来也は「友達が仲間を傷つけるのか!?今のお前のその有り様を見てみろ!」と言って聞かすんですが、でもどうしても「つながり」を信じたかったナルトは、この一点に希望を懸けたんだと思います…《でもサスケはオレを殺さなかった》という一点に。
だからその後の3年間、ナルトはその答えをずっと確かめたかったんじゃないだろうか…《なぜサスケはナルトを殺さなかったのか》の答えを。
そして天地橋任務での「再会」の時、ナルトはそれまで3年間の想いをサスケにぶつける。
「それなら…」
「それならなんであの時…」
「オレを殺さなかった!?」
「それでも断ち切ったつもりかよ!サスケェ!!」
だけどサスケは「あいつに聞かされたやり方に従って力を手にするのがしゃくだっただけ」とか「オレの気まぐれ」だったのだと…ナルトが期待した答えをアッサリと「否定した」。そして今度こそは「本気の殺意」まで見せて…
目の前のサスケは別人のように冷たく、昔のサスケとは違ってた…
ナルトはさらに「分からなくなった」…サスケと自分は本当に「友達」なのか?と。
さらにその後、サスケの“暁”入りで、里も同期も「サスケ処分」に動きだし、ナルトはますます「訳が分からなくなる」… おまけに、サクラちゃんまでサスケを処分する「覚悟」をしてしまったし…
《目的達成の為に友を犠牲にするか、それとも友を殺さないか》…今度は、ナルトのほうが「選択」を迫られる。
もはや「オレ達は友達なのか」とか「あの時なぜオレを殺さなかったんだ」なんて問いすら消えかかっていたかもしれない。ナルトは(鉄の国の)宿屋でゴロゴロしたり、屋根の上で悩みこんだり…
鉄の国の宿屋にナルトを訪ね、我愛羅はこんな事をナルトに伝えていた。
「影の名を背負う覚悟を決めたなら サスケの友としてお前が本当にやるべきことをやれ」 と。
そしてこの後なんです、660話の雑考で例に出した言葉を我愛羅がナルトに伝えたのは…
「オレはお前を友だと思っている」
「かつてのオレにとって“友”とはただの言葉…
それ以上でもそれ以下でもなかった」
「だがお前と会って気付かされた
大切なのはその言葉の持つ意味だと」
そして…
「その意味する事が何なのか」
「お前はサスケのために何をしてやれるのかよく考えろ」
いい事言いますよねぇ、我愛羅…。
ナルトはサスケを「友だと思っている」。でもそれだけじゃ「ただの言葉」でしかない…ナルトはその薄っぺらな虚しさを感じてたんですよね、だから迷って分からなくなってた。
だけど《大切なのはその言葉の意味、“友”の意味する事が何なのか》…我愛羅のおかげでナルトは気付いたんじゃないだろうか。《なぜあの時、サスケはオレを殺さなかったのか》の理由…それこそ“友という言葉の意味”なんだ、と。
「逆の立場」に立たされて、ようやく見えてきた《あの時、サスケがナルトを殺さなかった理由》…それは、
《友達だからだ》と…
やっと確信出来た《友情》…友という言葉の意味。
だからもう何が起ころうと「迷わない」と思えたんじゃないだろうか。
そのあと鉄の国境で再会した「目の前のサスケ」は、もう「最悪」の状態だったんですよね。ダンゾウを倒し香燐を貫いた直後だし、サクラやカカシさえ殺そうとして血まみれで毒々しい言葉を吐き続け…それこそ「天地橋任務での再会」以上に酷い状態だった。だけどナルトは「目の前の状況」に一切惑わされなかったんですよね。そしてサスケの「何でオレにそこまでこだわる!?」の問いにも、落ち着いて答えた…
「友達だからだ」と…
サスケがあの時ナルトを殺せなかったのも「友達だから」。ナルトがサスケを殺せないのも「友達だから」。そこまでサスケにこだわるのも「友達だから」…お互いに「友達だって分かってる」という「確信」。ただ片想い的な「願望」だけで叫んだ「友達だ」ではない、薄っぺらな空しい「ただの言葉」ではない、ちゃんと「意味」がある…ナルトには「根拠に基づく確信」がある。
あの時のナルトの「余裕の笑み」については、当時は「すっかり大人になったなナルト」なんて思ったモンですが、そういう訳じゃあなかった… ナルトはホントは「すっげー嬉しかった」んじゃないかと思うんです。だって「友達だと思ってたのはオレだけじゃなかった」と分かったから… やっとナルトは《友達という言葉の意味》を感じることが出来たんじゃないだろうか。
終末の谷の「激しい水の流れ」の風景とは違い、鉄の国境の川の流れはナルトの心と同じように実に静かで穏やか… 何年もかかってようやくたどり着いた《友達》という答え…
今の戦場に突然サスケが「援軍として」現れた時、ナルトが驚かなかったのは、鉄の国の再会で 既に《サスケとの友情》を確信していたからだったんですね。
そして、サスケがナルトに余計な「いい訳やら説明」をしなかったのも、「友情」を信じていたからでしょうか。
鉄の国で我愛羅がナルトにくれた言葉…あれがナルトの人生を大きく変えてくれたと思ってます。我愛羅は何かとナルトに「恩」を感じていて、今もナルトを必死に助けようとしてくれている。だけど、我愛羅だって今まで十分ナルトを助けてくれてるんだってばよ…
鉄の国(の宿屋)でナルトがサスケの事を思い悩んで「決意」するまでのエピソード… あの話は派手さはないし、背景の《深々と雪が降り積もる》無音の風景と同じように「静か」。だけど、あの時はナルトにとって「最も重要な分岐点」だったんじゃないかと改めて思えてきます。将来「火影になれるかどうか」の大きな分岐点だったんだと…(今だからこそ言えるのですが)。
もし、あの時我愛羅が来てくれなければ…ナルトにあの言葉をくれなかったら、ナルトとサスケの道も大きく変わってしまったかもしれない。
「オレはお前を友だと思っている」
「大切なのはその言葉の持つ意味だと」…
☆長駄文読んでくださって感謝。
☆ナルト好きブログ!2014/01/31